Wednesday, March 14, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(8)

前回はBase Erosion%の算定時に50%超の資本関係にあるControlled Group内の法人の数字は合算する点について触れた。もちろんだけど、前回も最後に触れた通り、合算対象となる法人はControlled Group内の全世界法人とは言え、%を計算する際に実際に取り込む数字はあくまでも米国でネット申告課税の対象となる法人が米国の申告書で計上している費用に限定される。具体的には、米国法人は全世界課税なので、当然、申告書上の全ての金額が入ってくる。外国法人に関してはECIで支店のような申告をしていれば、そこで計上されているDeductionのみを加味することになる。$500Mの売上基準に関しては、厳密に法文解釈すると、条約のPE条項で課税が免除されていても内国法で本来ECIであれば、そこの売上は加味しないといけないとしか読めない。一方、Base Erosion%算定のケースではIRCのChapter 1で控除される費用が対象となっていることから、Section 894はChapter 1の一部であることを考えると、PE条項で課税免除されている外国法人の数字は、例え内国法でECIでも、入れなくてもいいように個人的には考えている。

売上$500M以上という要件と共に、このBase Erosion%が3%以上となると修正課税所得とかBEAT計算が求められる。もちろんその先、実際にBEATミニマム税を支払うことになるかどうかは個々の納税者が置かれている事実関係次第なので何とも言えない。

BEAT適用判断と並び、Base Erosion%にはもう一つの用途がある。BEAT目的で修正課税所得を算定する際にNOLのいくらを加算調整するかという計算目的だ。この部分は法文を読んでも不可解というか、良く分からないのでチョッと詳しく触れてみたい。

以前にも触れた通り、BEATミニマム税は通常の法人税よりも、BEAT目的で再計算する修正課税所得に適用%(2018年は5%、その後10%、2026年から12.5%、ただし銀行は常にプラス1%)を掛けた金額が大きい場合に発生する。なんで、修正課税所得がいくらになるかが最終的にBEATミニマム税が出るかどうかのカギとなる。

こんなに重要な金額だからさぞかし詳細に規定されてるんだろうな、って思うかもしれないけど、それが意外にシンプル。日本語にするのは語弊が生じる可能性大で気乗りしないけど敢えて訳してみると、「修正課税所得」は「米国税法に基づいて算定される該当課税年度の課税所得だが、次の項目は除外して算定すること」となる。で、除外対象は僅か2つ。

ひとつめは「Base Erosion Benefit」。それはもちろんそうだよね。Base Erosion Benefitの恩典に網を掛けるためのBEATだから。で、何回も既にふれている通り、Base Erosion BenefitはBase Erosion Paymentのうち該当課税年度に申告書上、損金算入(Deduction)されている金額となる。言い換えると、損金算入されている費用のうち外国関連者への支払いに基づくものだ。除外して計算するということは、通常の法人税算定で損金算入しているものを加算調整すると考えると分かり易い。

で、もうひとつ除外対象となる金額が「該当課税年度にSection 172でAllowされるNOLのBase Erosion%」となる。ここは余りにサラッと書いてあるので一読しただけでは余り問題意識が生まれないし概念的には容易に理解できる。過年度からNOLがあり、通常の法人税計算でNOLを使っている場合には、NOLの中にも外国関連者に支払って生まれた費用が含まれている可能性があり、その部分は該当課税年度のBase Erosion Benefitを加算するのと同様に加算しなさいというものだ。

でも、ここでは大きな謎が二つある。まず、法文からは絶対に分からないのは、いつのBase Erosion%を適用するのかという点。これは単純な話、法律に触れられていないので不明という問題。最初読んだ時の印象では、NOLが発生した課税年度のBase Erosion%に違いないのではないかと思っていた。例えば、2018年にNOLが発生し、その年に損金算入した費用のうち、5%相当がBase Erosion%だとすると、それを2020年に使用したとして、NOLのうち5%は「悪い」金額なので95%しか使えないというのは合理的だ。もし使用年度のBase Erosion%を使わされると、NOLを構成する金額とは何の関係もない数字に基づいて算定されたBase Erosion%を使うことになるからだ。例えば2020年のBase Erosion%が50%だったとすると、NOLの中には5%しかBase Erosion Benefitが含まれていないと考えられるにもかかわらず、たまたま使用年度の%が高いという理由で使用するNOLの50%を加算しないといけなくなる。ただ、法律は一定のポリシーを実行に移す際にある程度の概算措置を規定することは良くあり、複数年度のNOLを使用する年度にいちいち過去の個々の年度のBase Erosion%を使って加算額を算定するのか、と言われると確かにチョッと面倒っぽい。となると経済的に合理的でないにしても実務的に使用年度のBase Erosion%と判断されてもおかしくない。ここは法文から分からないので財務省規則でも規定できるはず。

毎年Base Erosion%がある程度一定だったら問題ないじゃん、って思うかもしれないけど、2017年以前はBEATという法律自体存在しなかった訳だから、発生年度ベースで決めていいんだったら当面使用するNOLにBase Erosion%はないはず。ということはNOL部分に加算は必要ないってことになる。一方、もし使用年度のBase Erosion%となると、NOLを生み出した年度にはBEATという概念すら存在しなかったのに使用年度の%に基づいた加算処理をしなくれはいけなくなってしまう。これは結構大きな差となり得る。

次に潜在的にもっとヤバいのが「Section 172でAllowされるNOL」をどのように解釈するかっていう点、そんなのSection 172に書いてあるんちゃうの?って関西の人なら言うかもしれないけど(エセ関西弁だったらゴメン)、ここは奥深い。Section 172というのは通常の課税所得計算時にNOLを控除として認めますっていう条文。今回の税制改正で80%制限が加筆される前の法文の方が趣旨的に分かり易いけど、その課税年度に繰り越されてくる、または繰り戻されてくるNOLを控除として使ってよろしい、と規定してる条文だ。もちろん本当はもっといろいろ書いてあるけど趣旨的にはそんな感じと考えて欲しい。つまりSection 172の世界のみで言えば、過去からのNOLは全額控除していいですよってことになる。課税所得はマイナスということはないので、例えばある課税年度単年に100の課税所得があり、過年度からのNOL(80%制限には抵触しない前提)が1,000あったとすると、その年度に発生したいろいろな費用を引いて残っている100の所得に、Section 172で控除が認められる1,000のNOLを差し引いて課税所得はゼロとなり、900のNOLが将来の課税年度に繰り越される。う~ん、ここまでは小学2年生くらいの単純さ。

では、BEAT目的の修正課税所得を算定する際には、ここをどのように考えるべきなんだろうか。Section 172で「Allow」されるNOLを使えるっていう風に単純に法文を解釈するなら、上の例でいくと1,000のNOLを出発点としてBase Erosion%を掛けた金額だけを差し引いて、残りは課税所得(こちらも当年度のBase Erosion Benefitを加算したもの)に充当することができそうに見える。だけど、この「Allow」っていう部分を「当該課税年度にAllowされている」っていうように課税年度を修飾していると考えると、既に当年度で使うことができた100のNOLのみを使って修正課税所得を算定しないといけないこととなる。

法文解釈としてはどちらでもあり得るとは思うけど、読めば読む程この「Allow」が「Allowable」でないことから、当年度の金額に限定される解釈が正しいように思えてきた今日この頃、と言っても1月からそう思ってきたんだけど。更に法文パッケージと同時に公表されている両院協議委員会の説明文書では法文より踏み込んだ表現でご丁寧に「any allowable NOL deduction allowed under section 172」と記載されている。この文書が法文だったらほぼ明確にNOLは通常課税年度に使われている金額に限定されるだろう。Section 172でAllowableな金額(=NOL全額)のうち、当年度に使われている(Allowed)金額と読むしか、この二つの単語が一つの文に挿入されている理由は説明できない。とは言え、説明文書は法文ではない。法文にこの表現がそのまま使われていないのをどう考えるべきか。最後に気が変わったと解釈するべきか、それても説明文書が立法府の意図であると解釈するべきか。

法文解釈なので合理的に解釈の余地があるのであれば絶対的にどっちが正しいという世界ではないけど、上述のどちらの年度のBase Erosion%を使用するべきか、という点を完全な50・50とすると、二つ目の不明点は異なるガイダンスが出ない限り現状の法文では70・30または80・20程度で通常の計算で使用された金額のみと解釈するべきと個人的には見ている。

法文解釈から一歩離れて実務的な側面からも、通常の計算に使用した額に限定されるように思う。仮にNOL全額を出発点として使わせてくれるとする。さっきの例で行くと、修正課税所得計算でも1,000使用することになるけど、そこから実際に修正課税所得の算定で使用される金額は100ではなく、100に当年度のBase Erosion Benefitを加算、さらに1,000のNOLに対するBase Erosion%分も調整、と通常目的の使用額と異なる使用額となる。これを別途トラッキングしてBEAT用のNOL繰越表を管理しないと将来BEAT目的で使用できるNOLが訳わからなくなってしまう。AMTの時は別セットでNOL繰越額をAMT用に管理していたので、やろうと思えば不可能ではないけど、BEAT用に別のNOLを管理するような想定はしていないように思え、この点からも通常課税所得算定時のNOLにBase Erosion%を加味して使用するのでは、と考えられる。この考え方だと過去からの繰越NOLがあり、単年ではプラスの課税所得のケースでは、通常の課税所得はゼロとなり、何らかのBase Erosion Benefitが存在すると(もしろん3%未満ならそもそも関係ない)、BEATミニマム税が発生することになるので要注意。

という訳でだんだんBEAT特集も終盤を迎えつつあるけど、後一回くらいでWrap-Upかな。その後もトピックは山のようにあるけど、965、245A、59A、250、どの辺りから手を付けるべきかチョッと考えないとね。

Saturday, March 10, 2018

米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(7)

前回は1120F出し忘れにかかわる救済措置、前々回はウォーレンバフェットの話しに飛んでしまったけど、その更に前から書き始めたBase Erosion %の算定の話しの続き。Base Erosion %の分母と分子に何を入れるかは前回のポスティングで分かったとして、次に「誰の」数字を入れるのかっていう問題を考えないといけない。もちろん、納税者本人となる自己法人の数字は入れるに決まっているけど、それに加えて「Aggregation」規定に基づき、特定のグループ内法人の数字は合算して検討しないといけない。

Aggregation規定に基づくと、Base Erosion %の算定(および以前に触れた$500Mの売上基準の適用)時にはSection 52(a)で一人の雇用者と扱われる法人群は一社と考えるとしている。Section 52自体はは「Work Opportunity Credit」(WOC)の算定を規定している条項で、その際に複数の納税者を一人の雇用者と扱うとしているが、BEATのBase Erosion %算定時にも一人の納税者と扱われることとなる。ITS(国際税務)、Sub CとかSub Kを主に扱っているタックス専門家には馴染みが薄い。ただ、たまにBEAT以外の局面でも誰を同一グループのメンバーと扱うかとかいう判断で引き合いに出される条項だ。

米国税法下で、特定の恩典に適格となるか、とか、困難な計算を免除してもらえるか、っていうような判断、または以前は税率区分が課税所得レベル別に法人税でも4つはあったのでどの税率区分に属するか、っていうような決定、に所得その他の「しきい値」を用いることが多い。BEATでも売上$500M未満は対象外ですよ、っていうのもその代表的な例だ。もしこの判断を純粋に個々の法人単位で行うことを認めてしまうと、同じグループで複数の法人を組成して個々の法人レベルのしきい値を下げることで、いろいろとメリットが出てくる。そこで、同じ支配下にあるグループ法人群は十把一絡げにして一社として判断しましょう、という乱用防止的なアプローチだ。

このような目的で一社として扱うべきかどうかの判断を行う場合、大別すると連結納税グループを規定するSection 1504で攻めてくる場合と、Controlled Groupを規定するSection 1563から攻めてくることが多い。例の悪法の代表だった2016年の過少資本税制の財務省最終規則では「Expanded Group」(今となってはなんか懐かしい響きだけど)をSection 1504を引用して規定していた。Section 1504そのものの本来の目的はどの法人が連結納税グループの構成員となるかを規定しているので、もちろん外国法人が入ったりすることはない。ところが、Section 1504を引き合いに出す多くのケースで「ただしSection 1504の(b)(2)外国法人や(b)(3)保険会社を除外している部分は無視して下さい」というようなややこしい回り道をしてグローバルのグループを定義したりすることが多い。さらにSection 1504では考えることはない「みなし持分(Attribution)」とかもSection 318を後から適用させたりして、オリジナルSection 1504の原型をとどめない程、変更を加え、グループに誰が入るのかを判断する時点でお手上げ、専門家を雇い巨額(?)のプロフェッショナルフィーを支払うようなことになる。

過少資本税制の時も思ったけど、一旦Section 1504を引き合いに出した上で、外国法人も入れたり、みなし持分も加味させたりするんだったら、Section 1563の方を参照すれば、Component Memberとしない限り、最初からかなり目的に沿った構成員を定義できるんじゃないかな、って気もするんだけど。ここは引き続きなぜ議会や財務省がSection 1563というまさしくピッタリくる条項が現存するにもかかわらず、敢えてSection 1504を使ってくるのか、そのうち時間に余裕ができたらプールサイドでアイスレモンティーでも飲みながら自分でも良く考えてみたい。

上述の通り、Base Erosion%の算定目的では、Section 52(a)が参照され、Section 52(a)は基本的にSection 1563を参照していることから、BEATはSection 1504ではなくControlled Group概念を適用していることになる。Section 52のWOC目的では法人(C Corp)以外のパススルーとかも同一支配下であれば一人の雇用者と規定されているが、BEATではSection 52の(a)のみを取り込んでいるので、Section 1563のControlled GroupのMember法人、ただし、本当のSection 1563が80%以上基準としているものを50%超基準に置き換えて使用することになる。このことからSection 1563で広範に規定されるみなし持分の考え方が間接的に適用となる。

また、Section 52(a)では、Section 1563を50%超基準で適用する際、Section 1563の (a)(4)と(e)(3)(C)は無視するとしている。(a)(4)はControlled Group内に複数の保険会社が存在する場合には、保険会社群のみ別のControlled Groupとして他の法人群と分けて考えるというもの。この規定が適用されないということは複数の保険会社がグループ内に存在しても、それらも含んで一つのグループとして考えるということになる。(e)(3)(C)はみなし持分の考え方を適用する際に、退職金プランの信託が保有する株式は考慮しないというものだけど、この規定を適用しないということは逆に言えば、信託保有の株式も通常の株式同様に加味した上で持分を決定するということになる。

ここで一点、かなりテクニカルな話となるけど、BEATの法律には「ただし、Section 52(a)に基づきSectiton 1563を適用する際、Sectiton 1563(b)(2)(C)は無視する」と宣言している。これは凄く不思議。というか、個人的には単なる間違いのように見える。Sectiton 1563(b)(2)(C)はComponent Memberの定義として、ECIのない外国法人は免除しているというものだけど、元々Sectiton 52(a)ではSection 1563のメンバーの話しをしていて、Component Memberの話しはしていない。なのに、急にここでComponent Memberにかかわる外国法人の除外規定が不適用と言われても、Section 52(a)でもBEATでも元々除外されてない訳だから意味不明。間違って書いてあるように思うけど、こんな基本的なことでTechnical Correctionとなるんだろうか。

まあ、こんな感じでグループ合算して、Base Erosion%を算定することになる。グループで算定したBase Erosion%が3%以上になってしまったら、個々の法人の状況にかかわらず、グループ法人全員がBEATの計算をしないといけなくなる。また、BEAT目的の修正課税所得を算定する際、NOLのうちどれだけを加算する必要があるかっていうのも、このグループ全体のBase Erosion%に基づくことになる。グループ内他の法人が原因でBEATの世界に引きずり込まれたり、助かったり、どっちのシナリオをあり得ることとなる。

ちなみに合算する対象は全世界グループだけど、%を計算する際に取り込むべき数字はあくまでも米国でネット申告課税の対象となる法人が米国の申告書で計上している費用に限定される。米国法人の金額は当然全て入ってくるけど、外国法人に関してはECIで支店のような申告をしていれば、そこだけ加味することになるはず。$500Mの売上基準に関しては、厳密に法文解釈すると、条約のPE条項で課税が免除されていても内国法で本来ECIであれば、そこの売上は加味しないといけないとしか読めない。一方、Base Erosion%算定のケースではIRCのChapter 1で控除される費用が対象となっていることから、Section 894はChapter 1の一部であることを考えると、PE条項で課税免除されている外国法人の数字は、例え内国法でECIでも、入れなくてもいいように個人的には考えている。

さっきBase Erosion%によるNOL調整の話しが出たけど、ここの計算は法文上は良く分からないことが多い。この点は次回。

Saturday, March 3, 2018

外国法人による米国法人税申告書提出遅延と費用控除却下

米国の税制改正って可決してまだ2カ月強の時間した経過していないってウソみたい。もう2年は経った気がする。多分可決前からBlue Print、トランプ大統領の「Phenomenal」な改正発表、Unified Frameworkそして下院案、上院案とか追いかけてたのでそんな気がするのかもしれない。ただ、内容的にはBEAT、GILTI、FDIIとか想定すらしていなかったものが結構多く、これらの規定と寝ても覚めても格闘しているうちに、なんか随分と馴染んできた気がする。ただ、不明点がどんどん増えていくことも確か。まずは、支払利息の損金算入制限にかかわる規則が近々に出るはずなので楽しみ。旧Section 163(j)の繰越金利はそのまま、今後の金利として移管されるのか、連結納税単位での計算になるのか、法人の中でTrade or Business以外の支払利息があり得るのか、とか基本的なところで興味津々だ。その後、2カ月以内にGILTIとFDII関係の規則が出るそうだ。GILTIはとんでもなく強力な規定ってことが理解できてきたのでSection 78グロスアップのバスケットとか詳細楽しみ。その他の国際課税は8カ月くらいのスパンで規則が出るってことだからBEATはその頃かもね。

BEAT、GILTI、FDIIって何となく派手目な条文と戦っていたら、急にIRSの「The Large Business and International (LB&I) Division」っていう、要は数多い納税者の中でも規模が大きかったり、クロスボーダーでビジネスしてたりする企業を担当している部局が急に外国法人が1120Fをタイムリーに提出していないケースに対する措置をIRSの税務調査ガイダンスのような形で策定、公表したのでチョッと、またBEATから脱線するけど触れてみたい。日本企業にも大いに関係ある内容だ。

日本企業の米国税務とのかかわりって大別すると、米国に現地法人を設立して、そこが内国法人として申告するケースと、日本企業が外国法人として米国で活動するケースの二つがある。後者は更に米国源泉のパシブな投資所得を受け取るのみで税金は基本的に源泉税で支払うケースと、支店みたいに事業活動に従事しているとして外国法人として申告書を提出して普通に法人税を納付するケースに大別される。

米国で事業活動(「US Trade or Business」)に従事している外国法人は、そのUS Trade or Businessにかかわる所得(=ECI)を米国で1120Fという申告書を提出してネット法人税を支払う。日本のように米国と租税条約があるケースでは、通常はUS Trade or Businessよりも対象範囲が狭くなる「恒久的施設(「PE」)」に帰属する所得を同様に申告することになる。PEはないけど、厳密には内国法でUS Trade or Businessがあると思われるようなケースは条約ポジションを適用しています、っていう旨のの開示をする必要がある。これも1120Fを出して中身はブランクだけど、条約ポジション開示のためのForm 8833ていうのを付ける。これをしておくと申告書を出したことになるので時効期間が開始して、提出から基本3年で時効が成立するメリットがある。申告書を提出していないと未来永劫時効の成立がない。

で、外国法人として申告書を提出する重要な目的がもうひとつある。それは法人税の申告が求められる外国法人が一定期限内に申告書を提出していないと、課税所得算定の際に費用控除が認められないからだ。ということは総所得(=Gross Income)がそのままネット課税所得扱いになるという怖い結果になる。もしろん、本当に申告課税所得があれば、所得とか費用を申告書に計上してタイムリーに出せばいいけど、後からPE認定とかされる際にカラでもいいから申告書を出しておけば、いざという時に費用控除ができる権利を留保することができる。これが「Protective Return」と言われているものだ。

日経企業でも、実は米国で事業活動に従事するパートナーシップ投資からK-1を受け取り続けていたけど、キャピネットに大切にファイルしてあるだけで、過去に米国法人税申告書を提出していなかったようなケースがたまにある。余りそのままにしておくと上述の通り、費用控除が認められなくなってしまうから要注意だ。

費用控除が認められなくなるのは、申告書を通常の申告書提出期限(法人の場合、年度末から3カ月半)の18カ月後、またはIRSが申告書提出を求めるNoticeを発行した日、のいずれか早いタイミングで申告書が未提出のケース。え~、そんなタイミングとっくに過ぎてるし、っていうケースで唯一救いとなり得るのが、遅延に合理的な理由があって、かつ納税者が誠実に対応していることを立証して、IRSに費用控除の許可申請を行う免除規定。今までもこの規定はあったけど、どんな尺度で免除規定を適用してくれるのかケースバイケースでチョッと不明なところがあった。

そんな背景なんだけど、この税制改正対応で忙しいはずの絶妙のタイミングで、IRSのLB&I Divisionが急に免除規定の適用審査を公正に、首尾一貫して、迅速に行うという立派な目的で、IRS内の指針(「ガイダンス」)を策定・公表している。ガイダンスは「Waiver Summary Analysis」、「Waiver Procedure Guidelines」、「Waiver Flow Chart」の3本立てで構成される。

まず、Waiver summary analysisなるものを見ると、どのような判断基準で免除規定の適用を判断するかの指針が6つのポイントにまとめられている。すなわち、1) 自分で自ら未申告を認めているか、それともIRSが未申告を指摘しているか、2) 提出期限の時点では申告要件を認識していなかったのか、3)以前に米国で法人税申告をしたことがあるか、4)未申告は税法を吟味した結果の判断だったか、5)不可抗力で申告ができなかったのか、6)その他、情状酌量の余地があるか、となっている。当然だが外国法人がIRSに協力的かどうかも問われるところだ。

次のWaiver Procedure Guidelinesだけど、こちらは外国法人自ら未申告を名乗りでたのか、それともIRSが未申告を指摘しているか、の2つのケースで若干別のアプローチを規定しているけど、最終的にはフィールドのチームは前述の6つの判断基準に基づいて「Waiver Request Package」を取りまとめ、管轄マネージャーに提出することになる。その際に費用控除を認めるべきかどうかの「Recommendation」を付けるそうだ。管轄マネージャーのレビュー後にパッケージとRecommendationは共にCross-Border Activities Director of Field Operations (CBA DFO)に回される。費用控除を認めないというRecommendationとなる場合にはCBA DFOから更に特別委員会に照会され、最終判断となるそうだ。

と、なんとなくきちんと、公正に、首尾一貫して、迅速に検討してくれそうな雰囲気なので、万一、法人税申告の必要があるにもかかわらず、提出していないケースでは至急、申告書提出と共に費用控除の許可申請の検討開始要だね。