Saturday, May 20, 2017

トランプ大統領税法改正プラン(7) トランプ税法案はイバンカ税法案に?

前回のポスティングでも4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表のQ&Aの様子を引き続きカバーしたけど、今回でそろそろQ&Aは頑張って終わらせ、税法改正議論のその後の展開の話しに進みたいところ。

ところで、トランプ税法プランもトランプ大統領自身の立場が不安定で、いつまで「トランプ案」という名称で語り続けることができるのかな、なんてチョッと真剣に心配してあげないといけない状況になりつつある。従来の大統領とは違う人種ってことは皆分かってた訳だけど、ここまで来るとチョッと限度問題で想定の域から逸脱してる。メインストリームメディアが書き立てるようにトランプのすること全てがおかしい訳ではないと思うけど、一部の行動は余りに軽率な感は否めない。経験豊かな見識者で構成される共和党議員はどう思っているんだろうか。余り公言はしないかもしれないけど、みんな内心「なんてバカなんだろう。余計なことばっかりして・・」と苦々しく思ってる点は想像に難くない。議会がこういう余計なことに時間を費やすはめになると税法改正に費やすべき時間がその分単純に減る訳で、2017年中の立法がただでさえ日に日に際どくなりつつあった今日この頃に更に追い打ちを掛けている事実は否めないだろう。せっかくの「Historic」なチャンスを逃さないようにって願うけど、本当に迷惑。

「弾劾裁判でトランプが罷免されたら娘のイバンカが大統領になりトランプ税制案も「イバンカ税制案」になるんですか?」って半分冗談で質問されて、皇位継承とか北朝鮮の指導者と違ってまさか世襲はないでしょうと笑えた。大統領が任期中に退官、死亡等した場合には、憲法および1947年の大統領継承法に規定される継承順位に基づき、自動的に副大統領のMike Penceが就任することになる。で、万一何らかの理由でPenceも退官するような事態となったら、下院議長のPaul Ryan。Ryanも退官したら、上院仮議長のOrrin Hatch、その後も国務長官Tillerson、財務長官Mnuchin、と続いていき、トータル17人も継承プランに規定されているという言うから不測の事態への対策にぬかりはない。でも誰をとってもトランプより全然まともでいい感じ。Pence大統領とか議会からの信望も厚そうできちんと税法改正もできそうでかなりいける。そうなったら誰を副大統領に指名するだろうか。Paul RyanとかJohn Kasichだろうか?凄いDream Team。っていうかトランプの後だと誰でもDream Teamに見える。

でも実際にトランプが任期中に退陣に追い込まれることなどあり得るのだろうか。ハードルは高い。歴代、罷免されそうになったのはMonica LewinskyのBFFだった1998年のBill Clintonと1968年のAndrew Johnsonの2名のみ。2人とも下院では罷免が決議されて一時は騒然としたが、上院で有罪にならず難を逃れている。上院での有罪決定には3分の2の票が必要なので、大統領が属する党の議員が反対に回る可能性が高いことを考えると中々難しそうだ。ただ、Andrew Johnsonの時は上院で3分の2に後1票という際どいところだったそうだ。Bill Clintonの際には民主党議員は全員反対票を投じている。でもNixonは弾劾で罷免になったじゃん?って思うかもしれないけど、Nixonは弾劾裁判が始まる時点で自ら退任してしまった。なのでテクニカルには罷免された訳ではない。という訳で、イバンカ税制じゃなくてPence税制になる確率はそれ程高くないのかもしれない。もっともトランプ自身がNixonみたいに「もう辞めた」となれば別だけどね。

さて、話しを4月26日の会見Q&Aに戻そう。会見に参加しているメディアの方の多くはタックス専門ではないのは分かっているけど次の質問は余りにも余り。財務長官を学校の先生か何かと勘違いしたような質問。「財務長官、テリトリアル課税て国境調整のことですか、それとも関税?一体どんなものですか?」と堂々と基礎知識の勉強会となっている。トランプの選挙運動中にも散々言及されているし、The Blueprintにも書いてあるんだからもうチョッと予習してから税法改正の会見に参加して欲しかった。まさか本当に「遺跡保存法(Antiquities Act)」の会見に来るつもりでそっちを勉強して臨んでたりして。

Mnuchinもまさかここで全世界課税とテリトリアル課税の定義を講義するはめになるとは思ってなかっただろうけど、「テリトリアル課税というのは米国企業が米国の所得のみに税金を支払えばいいという考え方で、だからテリトリアルと言う。現状は全世界の所得に課税される仕組みで、他国と比べて米国企業が不利な状況に置かれている理由のひとつだ」と7秒でテリトリアル課税を説明するという離れ業を披露している。回答は正しいが、税法の仕組みをしらない初心者には具体的にどんなことかそれでも良く分かんないだろう。この手の手合いは国境調整とかもきちんと理解していない可能性が高い。

次はまたポリティクスっぽい質問だ。「こんな案には共和党議員が賛同しないという懸念はないでしょうか?共和党内で不協和が起こってまたオバマケア廃案失敗の二の舞になったりしないんでしょうか?(会見の時点ではオバマケア廃案は下院を通過していなかった)」

こういうタイプの質問は回答の方法に窮するが、Mnuchinが登場し「さっきから言っている通り(定番!)税法改正をしたいという機運は全員が共有しており、Gary(Cohnのこと)が会見冒頭で言った通り、我々は史上稀にみる改正実現の機会に恵まれることとなった。共和党も民主党も雇用を促進し、国民の生活をより良くしたいという思いに変わりはない。何回も言うが、原理原則には全員一致しており、詳細は今後議会と共に詰めていくということだ」とこの手の話しはそろそろ時間の無駄な感じ。

次は遺産税。「遺産税の撤廃はここ何十年に亘り議論されていますが、以前の議論では大概、一気に撤廃するというよりも、何年か掛けて徐々に撤廃していく(=Phase₋out)という手法が検討されています。シニアの方で構成される団体等に言わせるとそんな流暢なことを言ってる場合ではなく即撤廃すべきという懸念も聞こえてきますが、今回の案では一気に撤廃と考えていいでしょうか?」

この質問にはCohnが登場。「我々の現時点の提案は即刻Phase-Outだ。すなわち、この案が法律になれば、その時点で遺産税はPhase-Outとなる」とチョッと分かり難い回答。Phase-Outって普通は段々なくなったり消えたりすることだから、即刻Phase-Outっていう表現自体が若干Illogical? 質問している側も、その部分こそが核心だったので、当然確認が必要と考えたのだろう。「Phase-Outですか?即刻撤廃ですか?」と追加質問。「この案が法律となればその場で遺産税は消え去る」と力強い再確認となった。

今度はMnuchin向け。「2つ質問があります」と始まり、まあ最初の質問は普通。「今回配布されているサマリーは1ページだけで、もちろん先ほどから言われている通り、これ自体は原理原則なのは分かっているのですが、実際の税法となるともちろん1ページどころでは語り尽せない複雑なもので、肝心の詳細はいつ見せて頂けるんでしょうか?実際のプランを見てみたいのですが・・」と今日共有されているものはプランですらないとでも言いたげな(無理もないけど)表現だ。

ここでもMnuchin節炸裂。「可能な限りのスピードで詰めていく。下院、上院と既に詳細を詰めている過程で、一日も早く具体的な税法に仕上げる点で全員意見は一致している。詳細に関して合意できた時点で、その内容を皆さんに公表しご説明差し上げることになる」。これでは実質いつになるか分からないと言ってるのと同じ?

「二つ目の質問ですが、大統領はご自身の申告書を開示するのでしょうか?」と今回の会見に全然関係ないどうでもいい時間の無駄質問。それにしてもトランプの申告書なんかになんでそんなに興味があるんだろう。どんな申告書だったとしても唯一の目的は徹底的に叩く、というのがリスクエストの根底にあるとすると余り実質的な議論には関係ない。この点に関しては以前の「トランプの申告書に皆何を期待してるんだろう?」を参照のこと。

Mnuchinは無視するかと思えば、意外に正面から「大統領が申告書を開示する予定はない。大統領は既に歴代大統領と比較しても最も自身の財務状況を開示していると言え、国民の方に十分な情報開示がなされている」とした。この手の話しはテリトリアル課税とか国境調整は正確に理解できないかもしれないメインストリームメディアの得意分野だから、ここぞとばかりに騒然となり多数の声が上がる。「米国市民は税法改正が大統領自身の個人的な税務ポジションに与える影響を知る権利があると思うのですが・・」とせっかくの税法改正の話しが三面記事っぽい流れに変わる。そんな権利あったの?って感じだし、そんなこと知ってどうするんだろう。大統領個人に有利な税法改正は反対するのかな?トランプに限らず、クリントンだって減税になれば皆応分の恩典は受けるはず。トランプの申告書なんてどうでもいいからしっかりした税法改正を審議して欲しい。

さすがにMnuchinはそれ以上は相手にせず「他にも質問をしたい方がいるので」と議事進行していく。

次は「ミドルクラス減税ですが、例えば4人家族で所帯の収入が$60,000だとしたらどれ位の減税になりますか?」というもの。聞いてみたい気持ちは良く分かるけど、さっき税率区分が未だ決まってないとQ&Aで回答されていて、しかも「今日はそんな詳細の話しをする場ではない」とCohnの叱責もあった位だから具体的な減税額など算定できる訳ない。

Cohnは「減税となります」と禅問答のような回答。「いくらですか?」と記者もしつこい。Cohnも負けていない。「減税となります」と繰り返した後、「あなたもさっきの記者と同じような質問を繰り返してるが、そういう詳細は適切なタイミングでお知らせする。下院および上院のリーダーたちと極めて強固な議論を進めており、議論は凄いスピードで進んでいる。その上で詳細は分かり次第皆様にお伝えしていく」ということ。それにしても、どんどん形容詞とか副詞が大袈裟になっていくのが面白い。英語の会話で形容詞、副詞が大袈裟になってきているケースは実際には反比例して内容が不確実と考えた方がいいことが多い。

次の最後の2つの質問はトランプ個人にフォーカスしていて税法改正と言う切り口からは余り意味がない。まずは「選挙演説中には大統領本人を含む富裕層には増税するとか言ってたくせになんでそうなってないのか」というもの。これに対してMnuchinは大統領個人の税金がどうなってるかは一切知らないと前置きした上で「表面的に税率は下がるかもしれないが多くの控除が撤廃されるので、控除を多く取る傾向にある富裕層の実効税率は上がるかも」という回答。

最後はナンとAMTという地味なトピックでエンディングとなった。しかもAMTを撤廃すると大統領の税負担が軽くなるのでは?というもの。Mnuchinは「何回も言うが」といつもの感じで「いいですか、経済成長、雇用促進のため減税および税法の簡素化をしようとしている中、AMTは税法を不必要に複雑化させている悪法の代表で撤廃すべき」と回答している。AMTは面倒で制定当時の目的は失っているというか、実務的負担とポリシー的なメリットのバランスが悪く、トランプがどうなろうとAMTなど即刻撤廃した方が日本企業を含む納税者にとって好ましいこと間違いない。メインストリームメディアはなんでもトランプが自分が得しようとして税法改正案を作成しているという思い込みの呪縛からいつまでも逃れられない様子。

で、とても付き合ってられないと思ったのかMnuchinは「Anyway, thank you everybody. We appreciate you guys being here!」とまるでロックバンドがコンサートでアンコール2~3曲やって、本当に最後に観客に礼を言ってステージから去っていくような軽い感じのあいさつを残して、一瞬にしてCohnプラス取り巻きと一緒に裏に消えてしまった。時は東海岸Day-Light Saving時間ちょうど午後2時くらい。22~23分と言う短い会見だったけど、そんな短時間とは思えない面白いドラマ満載の、だけど内容に乏しい会見でした。

次回は大統領改正案の反応、今後の展開等に関して触れてみたい。特に国境調整、金利の損金算入、パススルー、とかいくつかメジャーなトピックに関して。