Tuesday, September 20, 2011

2011年米国タックスの行方(8)- Sch. UTP(続5)

そろそろUTPの話しも「Wrap Up」したいタイミングなので今回は今まで触れていない点を全て盛り込む。

*不確実なポジション内容の簡単な説明

Sch. UTPで開示されるポジションの各々に関しては「簡単な(Concise)」説明が求められる。IRSによるとこの説明はポジションに関係する簡単な事実関係・背景、IRSがポジションの内容、事の性格を理解するための情報のことを意味し、通常は2~3の文で事足りるだろうということだ。

IRSが公表している例のひとつを紹介すると(原文はもちろん英語なのでニュアンスが伝わりきるかどうか分かりないが)次のようになる。前提となる背景は「M&Aを複数仕掛けたが、買収に漕ぎ着けたのは1件のみで、他は交渉が決裂したり、また買収を断念したりした。買収に係る調査費用・交渉費用のうち、成約した案件(ひとつ)に配賦された金額は資産計上されたが、他の案件に配賦されたコストは全額損金算入された。会計上(=FIN 48)、他の案件に配賦されたコスト、すなわち損金算入されたコストが過大な可能性があるとして、その分引き当てが計上された」というものだ。

このような背景に対して適切とみなされる簡単な説明は次の通り。「M&A関連で一件買収に成功した案件および買収に至らなかった複数案件に関して調査費用、交渉費用が発生した。これらの費用は買収成立案件および未成立案件に配賦されている。不確実なのは配賦金額が適正であったかどうかという点。」

それにしてもこんな説明を出したらIRSが税務調査に来て、成約した案件にもっとコストを配賦しなさい、という指摘を受けるのは間違いがないような気がしてしまう。

*連結納税

連結納税を行っている場合、Sch. UTPは連結グループで一枚報告すれば良い。連結ベースでSch. UTPにて税務ポジションを開示する場合、そのポジションがどこの子会社に帰属するかという情報は開示の必要なしとされている。

*IFRSその他の会計原則

FIN 48は米国会計原則(GAAP)であるSFAS 109のサブセットであることから、米国GAAPに基づかない決算書を発行している場合には、FIN 48と異なる考え方で引当が計上される、またはされないことになる。例えば、今流行のIFRSに基づく決算書には(同様のコンセプトはあるとしても)、FIN 48そのものの適用はない。更に日本企業のように親会社が日本GAAPで決算書を作成し、日本で監査を受けているケースもある。

いずれのケースも、会計監査を受けていて(または監査済みの決算書に米国法人が含まれていて)、そこに不確実性のある税務ポジションに関する引当が計上されている場合には、どのような会計原則に基づく場合でもSch. UTPでの開示が求められる。

異なる会計基準でも(偶発債務っぽい)引当があればポジションの開示が必要ということだが、そもそも会計上の引当計上基準が異なるにも係らず一律に決算書ベースでSch. UTPの開示義務が決定されるというところは若干適用が難しい。「Sch. UTPは税務申告用に特別な作業をほぼ必要としない納税者フレンドリーな規定なので皆さん安心して下さい!」というIRSのキャッチフレーズ上、余計な調整はさせたくなかったのだろう。

また、米国GAAP以外の原則に基づき引当は計上されているが、FIN 48で税務ポジションの単位となる「Unit of Account」の考え方が米国GAAPと異なる際には、FIN 48の考え方に置き換えた形のUnit of Account毎での開示が求められるようだ。今後、米国企業がIFRSに移行していく過程で(本当に移行があれば?)この辺りの考え方はもっとクリアになっていくだろう。

*欠損金の課税年度

不確実な税務ポジションが存在する課税年度が欠損金の年でも、FIN 48の引当がその年に計上される限り、Sch. UTPはその年に税務ポジションの開示をする必要がある。逆に後年にそのNOLを使用して実際にベネフィットを認識した年には、再度そのポジションを開示する必要はない。

*過年度のポジション

2010年度がSch. UTP適用の最初の年となることから、2009年またはそれ以前に計上されているFIN 48の引当は開示の対象とならない。これは2010年またはそれ以降に、過年度の繰越欠損金(NOL)を使用して、そのNOL金額にFIN 48引当対象となる金額が含まれていたとしても、2009年またはそれ以前のポジションに関しては開示の必要はないとされる。

2010年またはそれ以降のポジションに関しては、過去にSch. UTPに開示されていないポジションが後年にFIN 48で引当が必要と判断された場合、その時点でSch. UTPの開示が求められる。例えば課税年度2011年に関して2011年の決算書では引当が必要ないと判断されていたポジションに関して、2013年に状況が変わり(例えばIRS税務調査が入り)、引当が計上されたとすると、2013年の申告書のSch. UTPで当ポジションの開示が必要となる。

*申告書提出前に引当の変更があったら?

米国の法人税申告書は期末から8ヶ月半の間に提出されればいい。2ヵ月半の時点で延長は必要で、もちろん延長なしで提出してもいいが、実際のところほぼ必ずと言っていいほど延長される。12月決算の場合は3月15日に延長して、9月15日までに提出というパターンだ。

申告書提出までに結構時間があることから、場合によっては期末の監査報告書ではFIN 48に基づく引当がされていても、申告書が提出されていないその後の四半期決算書で引当を戻すようなケースもあり得る。その場合には、四半期決算が監査を受けていれば、申告書提出時点で引当がないものは開示の必要はない。一方で四半期決算が未監査の場合には、期末の引当をそのままSch. UTPに載せる必要がある。

*Sch. M-3への影響

Sch. UTPが定着すると、会計上の税引前利益と課税所得の差異調整(Reconciliation)を開示するSch. M-3での開示を簡素化できるのではという推測があるが、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

というわけで駆け足気味にUTPに係る話しは当面これにて終了としたい。