Thursday, July 2, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(6)

前回のポスティングではオバマ政権による国際課税強化案の3つの柱の2本目である「Anti-Deferral」の背景に触れた。今回はその内容そのものを見てみる。

*米国親会社側での費用損金不算入

オバマ政権が提案している「Anti-Deferral」は面白いことに、海外子会社に眠る所得を米国で課税するぞ、という直接的なものではなく、米国に配当しないのなら米国親会社で発生する費用の一部を損金算入させないぞ、という間接的なものである。基本的には所得と費用のマッチング・コンセプトで理論的には「なるほど」と思えるものだ。

現に、日本のようにTerritorial制度に移行した国でも、配当が非課税となる一方で、その分、海外子会社に対する投資コストは損金不算入とするという規定が存在することが多い。日本の規定では配当の5%部分が課税となるが、これが投資コスト見合いとなる。

オバマ改定案は、配当されない海外子会社からの所得など、米国にて「益金」算入が繰り延べられている外国からの所得がある場合、これに対応するとみなされる費用の損金算入を、その所得が将来的に米国で益金算入されるまで繰り延べるというものだ。ただし、研究開発費はこの制限の対象ではないとされる。

一旦損金算入が繰り延べられた控除額は、次年度またはそれ以降に繰り越される。繰り越された費用は、将来の外国からの所得に対応する費用に加算された後、同じように損金算入の制限の対象となる。

米国が世界でも有数の高税率国(日本に次ぐ)であること、また税金以外の事業目的を考えても、毎年、海外子会社の所得「全額」を米国に配当し続けるというのは想像し難い。となると毎年、損金算入できない費用が累積していくことになる。

いつかは米国に配当される、と考えればこれらの費用はいずれ損金算入される性格のものだ。となると繰延税金資産として税効果を認識すれば、キャッシュ・タックスには影響するものの、会計上の実効税率には影響がないと考えることができるかもしれない。しかし、APB23に基づき「海外で無期限に再投資します」として配当に対する米国課税を認識していないケースでは、繰り延べされた費用の税効果を認識することは二枚舌であり、論理的にあり得ない。となると米国多国籍企業の最も恐れる実効税率の上昇に繋がる。

具体的にどのような費用が「外国に留保される所得に対応するとみなされる費用」となるかは明確ではない。外国税額控除の制限枠の算定に利用されるSec.861に基づく費用の配賦・按分計算となると予定されているが、犠牲となる費用として最初に頭に浮かぶのは「支払利息」であろう。全体の資産に占める海外子会社投資残高の割合で、支払利息の一部が外国の所得に対応する費用となり、米国に配当されない所得がある場合にはその分が損金不算入となるということだ。

この改定案が法律化されたとして、米国多国籍企業は本当に海外子会社の所得を米国に還流させるだろうか。Anti-Deferralは外国からの配当を強制する効果を持つ一方で、後日のポスティングで触れる外国税額控除の算定に係る改定案は外国からの配当を抑止する効果を持つと思われる。となると、オバマ政権は米国多国籍企業に外国の所得を米国に還流して欲しいのか欲しくないのか、どちらの政策なのかはっきりしない。というか、おそらく政策としては、配当してもしなくても課税するというところだろうか・・・。

今後のロビー活動でAnti-Deferralを反故(ほご)にしようとする動きが加速されるだろう。しかし、歳入が必要であるという原点に戻ると、多国籍企業としては「代わり」に何をもって国家予算に寄与したいのか、という最終的な「おち」を考えておかなくてはならない。何か代替の税収を探さない限り全ての国際課税案に反対していても勝ち目がない。一般には、代替財源は「連邦レベルの売上税、もしくはヨーロッパ型の付加価値税(VAT)」しかないと言われているが、果たしてそのようなものが導入されて米国多国籍企業はハッピーというか「Less Unhappy」になれるのか?

次回はオバマ国際課税強化案の3本柱の第三弾「外国税額控除の制限強化」について触れたい。