Saturday, February 14, 2009

景気法案可決 - でもNOL繰戻は期待外れ

オバマ政権成立後、僅か数週間で合意に達した「Stimulus Package(景気刺激策)」だが、その中身はここ1~2週間の間に展開された上院・下院、民主・共和両党の「凄まじい」駆け引き、交渉で二転三転した。

中でも日本企業的に一番ダメージというかショックが大きいのは繰越欠損金(NOL)の繰戻規定の大幅な後退であろう。

*一時は全ビジネスに10年の繰戻という話しも・・・

このNOLの繰戻だが、通常は2年間認められている。したがって、2008年にNOLが発生する場合、2006年および2007年の課税所得額がNOL額より大きければ全額を吸収することができる。実際にはAMTの算定目的で使用できるNOLがAMT課税所得の90%に限定されていることから、若干の税金を残して還付を受けることになる。

自動車会社の業績に象徴される通り、多くの米国企業が2008年に「空前」のNOLを計上することが確実となっている。となると、2年間の繰戻期間ではとてもNOL全額を吸収することができない。さらに資金繰りが悪化している企業がほとんどであることからNOLの「現金化」はまさに米国企業にとっても生命線となる。

そこで検討されてきたのがNOL繰戻期間の臨時延長である。一時は10年間の繰戻が認められるという噂も流れ、期待が高まっていた。

*5年間の繰戻と10%減額

しかし、景気刺激策の内容が明らかになるにつれ、10年という話しはなくなっていった。5年という期間で規定が具体化されてきたのである。「まあ5年でもいいか」というのが大方の見方であった。

2008年に多額のNOLが発生し、繰戻で吸収できないとなると当然残りは繰延となる。2008年の業績が最悪であり、かつ景気回復の見込みの全く立たない状況で、将来の繰越に係る税効果資産を認識するのは難しい。となると繰戻の延長が規定されれば、その時点(暦年であれば第一四半期)でNOLの資産価値(繰り戻しによるReceivable)を認識することができる。ということで繰戻5年の規定成立を待ち焦がれているケースは多かった。

下院で審理が進むにつれ、5年の繰戻に尾ひれが付くこととなった。5年の繰戻を選択するとナントNOLの金額が「10%減額」になるというのだ。チョッとセコイ気がしたが「それでもしょうがないね・・・」というのが率直な感想だった。

*期待の上院も・・・

そこで頼もしく登場したのが上院であった。当初の上院バージョンではNOLを5年繰り戻しても10%の減額は盛り込まれていなかった。「上院バージョンで最終化しますように」と祈っていたのも束の間、話は変な方向に行ってしまった。

*なんだこれ?

景気刺激策の財政的なコストを下げるために両院であれこれ調整している間にNOLの5年繰戻はとんでもない方向に行ってしまった。ナント5年間の繰戻が認められるのは過去3年間平均の年間総収入(Gross Receipt)が1500万ドルを超えない事業主体のみと規定されたのだ。

この1500万ドルの算定には、50%超の資本関係にある「Control Group」(通常のControl Groupは80%以上の資本関係だがNOL繰戻規定下では50%超が基準となる)が「ひとつの事業主体」と取り扱われるためチョッとしたサイズの日本企業米国子会社は簡単に超えてしまう。つまり5年間の繰戻は使えない。

NOLの繰戻を規定している部分の法タイトルも「Small Business Provision」(小規模事業規定)となってしまっており、その名の通り小規模の事業のみが恩典を受けることとなった。

今回の景気刺激策に盛り込まれた税法改正はBonus Depreciation等他に恩典を受けることができそうなものもあるが、注目度一番のNOL繰戻が空振りに終わってしまったことから、多くの日本企業にとっては肩透かしをくった感は否めないだろう。