Thursday, January 1, 2009

外国子会社からの配当、日本で非課税の衝撃

日本で外国子会社からの配当が非課税となるかもしれないという話しは2008年前半から注目を集め、その点に関しては2008年5月24日の「日本版Sec. 965(海外子会社からの配当金非課税)」で紹介しているが、いよいよ2009年4月に現実のものとなるようだ。

具体的には25%以上を持つ海外の子会社等からの配当の95%が非課税となるということらしい。この法律が現実のものとなるとグローバル展開する日本企業には単に配当を本邦でのタックス・コストがほぼ発生しない形で受け取ることができるという以上の極めて大きなインパクトがある。

*海外子会社の実効税率が白日の下に

従来、日本の外(例えば米国)で日本企業のグループ会社にタックス・プラニングを提案すると、「でも最終的には海外で得た利益を日本に戻せば42%のタックスを支払うことになるし、その際の間接税額控除等を考えれば、プラニングはしても無駄」というような抵抗に直面することがあった。

時間差(=税金支払の繰り延べ)でも立派なタックス・プラニングであること、海外で得た利益は多くのケースで海外で再投資されること、等を考えるとそのような考え方は正しくないが、プラニングにコストを掛けたくないようなケースでは何となく説得力があるように聞こえる議論であった。

タックス・プラニングは大別して、繰延税負債が計上されるため決算書上にはインパクトがない(または少ない)「時間差攻撃型」と、決算書上の実効税率まで下げる効果を持つ「永久差異型」がある。前者を「キャッシュ・タックス」、後者を「ブック・タックス」というが、今までは海外でキャッシュであれ、ブックであれどのようなタックス・プラニングを施しても、最終的に日本で課税されるということであれば親会社の連結決算書上のブック・タックスは理論上常に42%を下回らないことになっていた。もちろん、「海外で無期限に再投資をする」という米国で言うところのAPB 23的なポジションを取れば海外の実効税率をグローバルな連結決算書で反映させることも可能ではあったが。

税法改訂が実現すると、それが一変し、2009年4月以降は海外の留保金に対する実効税率は海外の実効税率そのもの(プラス配当時の源泉税)がそのまま日本の親会社の決算書に反映されることになる。

となると従来は余り見えなかったどの企業が海外でどのようなタックス・プラニング(というよりはタックス・マネージメントと言った方が近いかもしれない)を実行しているかという現実が浮き彫りとなる。すなわち、海外における有効なタックス・マネージメントの有無が決算書上、直接的に反映されることとなる。このインパクトは結構大きいだろう。

*タックス・ヘブン税制は「永久差異」に?

米国のSubpart Fに類似する日本のタックス・ヘブン税制であるが、従来これは「実際に配当しない留保金を配当したかのように課税する」というコンセプトであった。すなわち長い目で見ればこれも時間差の問題だった。

ところがタックス・ヘブンではない国の子会社からの配当は実際に配当をしても非課税の取り扱いを受けることができるとなると、タックス・ヘブン税制に抵触するコストは「永久差異」でまるまる42%となる。このインパクトは大きい。

*注目度が高まる各国の「源泉税率」と「租税条約ネットワーク」

配当が非課税となると当然のことだが配当に係る外国税額控除は廃止となるだろう。となるとグローバルベースで税率を最小限とするには、子会社の実効税率を低く抑えるばかりでなく、各国から日本の親会社に配当する際に課せられる源泉税を最小限とする必要がある。

源泉税は各国の内国法にて規定されるが、多くのケースで租税条約にて低減されている。租税条約の適用には「恩典制限」等の諸条件を満たす必要がある場合が多く、海外子会社ネットワークを再検討する必要が生じることもあるだろう。

*サンドイッチ形態の解消

日本企業でも米国の下に米国外の海外子会社がぶら下がっているようなケースがある。それらの子会社が米国の実効税率より低い税率の国に存在する場合、米国を間に介在させるサンドイッチ形態はタックス的に効率が悪いことになる。米国を通すことにより低税率の効果が消えてしまうからだ。

以前であれば、どうせ日本に戻せば42%だということで気に留めないケースもあったものと思われるが、各国の実効税率がそのまま日本の連結決算書に反映されるとなるとそうも言ってはられないだろう。

このように海外子会社からの配当が非課税となるというだけで、いろいろな局面でグローバルなタックス・プラニングを再考する必要性に迫られることとなる。