Saturday, January 17, 2009

政治家による「年金未納問題」アメリカ版(1)

オバマ新政権で最重要ポジションのひとつとなる「財務長官」に指名されているGeithner氏が過去にタックスをきちんと支払っていなかったという事件が発覚した。財務長官といえばIRSを傘下に持つ財務省のトップであることから、その張本人がタックスを納めていなかったとなるとただ事ではない。

通常であれば大きな問題となり、商務省長官のポストを公共事業受注に係る疑惑で断念せざるを得なかったBill Richardson氏に続き、指名を辞退といった方向になってもおかしくない事件だ。しかし現時点ではメディアによる報道も、共和党による追及も比較的ソフトに推移している。米国の現状を考えると、これ位のことで騒ぐよりも早く財務長官を決めて景気回復策に専念して欲しいというのが本音だろう。

*問題は「社会保障税」の未納

このタックス問題だが、Geithner氏が国際通貨基金(IMF)に勤務していた4年間、日本の厚生年金保険料に当たる社会保障税(いわゆるPayroll Tax)を支払っていなかったというものだ。これを聞くと、日本で何年か前に話題となった多数の政治家による「年金未納問題」が思い出される。

*日本の政治家年金未納

日本では与野党双方に属する多数の政治家が、支払い義務のある国民年金保険を支払っていなかった過去があるということで話題となり、それが理由で辞職に追い込まれたケースもあった。「未納三兄弟」なる言葉まで流行したものだ。

日本では学生等の所得がない者も国民年金保険料の支払いが義務付けられていたり、納付は基本的に個人によるアクション任せであることから、国民年金を規定通りに20歳からきちんと納付していないケースは実際には多いだろう。原資がないのに支払わなくてはいけないという点、制度的に少し無理があるような感じもする。

*Geithner先生に一体何が起きたのか?

一方、米国の仕組み下では、納付をしないケースはむしろ稀で、納付をしていないということは完全に「脱税」行為と同列だ。特に後に財務長官に氏名されるような有識者が社会保障税を4年間にも亘って納付していないというのは通常考え難い。一体、Geithner先生に何が起きたのだろうか?

*米国の社会保障税の支払い方法

米国の社会保障税はFICAとSECAの二種類で構成されている。税務上、従業員(Employee)と位置づけられる者に関しては、雇用者(Employer)がFICAと呼ばれるPayroll Taxを給与から源泉徴収する。税率は公的年金部分が6.2%、老齢医療保険であるMedicareが1.45%の計7.65%である。6.2%部分に関しては課税対象に上限がある。2009年の上限額は$106,800でこの金額は物価スライド調整の対象となる。1.45%に関しては上限額はない。

雇用者は従業員から源泉徴収した金額と同額を足して(FICAマッチという)合計をIRSに納める。したがって、従業員に関して言えば、雇用者がきちんと源泉徴収義務を履行している限り、Payroll Taxの払い漏れということはあり得ない。

従業員ではないフリーランスその他の自営業者(米国の用語ではIndependent Contractor)は、事業のネット所得に対して15.3%のSECAを支払う。なぜ15.3%かというと、自ら雇用者マッチ額相当分も負担しなくてはならないからだ。実際の算定には、雇用者であればFICAマッチ額を費用控除できる関係からもう少し複雑な計算となるが、ザックリ説明するとネット所得に15.3%の税金だ。SECAは最終的に個人所得税の確定申告書上で計算され、所得税に上乗せする形で支払いを行なう。所得税と同じ制度内で納付することから支払い漏れが起こる可能性は低い。

SECAの15.3%だが、このうち公的年金部分の12.4%はFICAのケースと同額の課税対象上限額が適用される。この15.3%は通常の所得税にプラスとなることから、結構な負担となる。パートナーシップのパートナーの得る報酬もSECA対象となることから、僕も毎年払っているが結構サイフに効く。

このように、FICAにしてもSECAにしても、日本と異なり実際に所得がある場合にその一定%を納付するということなので、収入のない学生とかは対象外であり、支払いの原資がないという局面はない。また、FICAは雇用者による源泉徴収にて支払われるとし、SECAは確定申告書上で算定・納付ということであるから、所得があれば基本的に必ず総合課税の申告が必要となる米国では納付漏れは考え難い。(続く)