Tuesday, November 18, 2008

外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化(3)

*米国源泉FDAPが源泉税対象とならないケース

前2回のポスティングで米国から外国人に行われる支払いが源泉税の対象となるのは支払いが「米国源泉」の「FDAP」である場合である点に触れた。

米国源泉FDAPは基本的に米国内国法に基づき30%の源泉税対象となるが、いくつか例外がある。今回のポスティングでは代表的な例外に触れる。

*ECI(米国事業所得)

外国人に対する支払いから徴収される源泉税は通常、外国人にとってそれが最終税負担となる。すなわち、源泉税が適切に徴収されている限り、支払いを受け取る外国人側では申告書提出をして税金の算定、納付をする必要がない。ただし、源泉税が過多に行われている場合には、受け手側で申告書を提出して還付請求をすることが認められる。

源泉税徴収という仕組みは、支払いを行ってしまった後に税金を徴収するのが困難な場合に適用されることが多い。相手が外国人の場合には、納税者にIRSの法権が実質及ばないようなケースが多く、この発想は当然のものである。

しかし、もし米国源泉FDAPが米国事業に係る所得であったらどうか?外国人が受け取る所得のうち、米国事業活動に関連するものをECI(Effectively Connected Income)という。正確には「Income Effectively Connected to U.S. Trade or Business」、すなわち、米国事業に実質的に関連する所得ということになる。

ECIを受け取る外国人は米国企業、米国個人同様に申告書(1120F、1040NR)を提出し、総所得から経費を差し引いたネット・ベースで税金を算定する必要がある。これは総所得に一定%を乗じる源泉税とは大きく異なる。なお、1120Fは近年フォームが改正されより面倒な様式となっている点に注意。

このことから外国人はECIに対して予定納税等を含む支払いを自ら行う立場にあることになる。となると基本的に支払い側では源泉税を徴収する必要がない。ECIがあるということは米国に事業を行っていると言うことなのでIRSとしても外国人とは言え資産の差し押さえその他の法権が及び易いということでこのようなシステムとなる。

ECIは支払いの受け手となる外国人がまず米国に事業を営んでいる場合にのみ関係する。租税条約的に考えると外国人が米国にPE(=支店と考えてもよい)を持っている場合だ。米国事業が存在しない場合には、基本的にどの所得も米国事業に関連するということは理論的にあり得ないのでECIにはなり得ない。ただし、過去に米国事業が存在していた場合には、例え所得を受け取る段階で米国事業が存在しないとしても、過去の米国事業に関連しているということでECIとなるケースもあり得るので注意が必要だ。

米国に事業活動が存在する場合には、次にどのような所得が事業活動に「関連(=Effectively Connected)」なのか、という判断が必要となる。FDAP所得に関しては所得を生み出す資産が事業資産であるかどうか(=Asset Test)、または所得を生み出す活動が事業活動であるかどうか(=Activity Test)のいずれかで判断を行う。

例えば、米国事業に係るWorking Capitalを一時的に運用して受け取る利子所得はAsset Testに基づき、FDAPではあるがECIとなる。したがって、利子を支払う側では源泉税の徴収は必要ない。また、米国での事業活動と位置付けられる役務提供に対して受け取るコンサルティング費用はFDAPではあるが、Activity Testに基づきECIとなる。

FDAP以外の所得に関しては「Force of Attraction」の考え方に基づき、米国源泉所得=ECIとなるのが内国法の考え方だ。例えば、米国事業とは全く関係のない米国源泉の棚卸資産の売り上げ(=FDAPではない)があったとすると、これは事実関係として事業に関連しているかどうかには関係なく強制的にECIとなる。ただし、これは内国法の考え方であり、米国と租税条約と締結している国(例、日本)の居住者、法人に関しては実質、PE規定がこれら内国法の考え方に優先する。すなわち、租税条約下ではPEがあり、かつそのPEに「帰属」する所得のみがECIとなる。

*ECIかどうかの判断は誰がする?

このようにECIであれば支払う側に源泉義務がないというのが基本的な取り扱いとなる。しかし、外国人に支払いをする側に「受け手はこの所得をECIとするだろう・・・」などと判断する情報が常にあるだろうか?しかも、本来源泉税を徴収するべき局面であったことが後から分かったらその分を自己負担しなくてはいけないかもしれない、となると安易な推測はできない。

そこで財務省規則では、ECIかどうかは所得の受け手が判断し、それを支払い側に正式に告知することを義務付けている。逆に言えば、この告知がない限り、支払い側は所得をECIと取り扱うことはできない。この告知を行うためのフォームが「W-8ECI」である。