Saturday, August 9, 2008

米国投資とスワップ(2)

前回の「米国投資とスワップ(1)」では通常であれば源泉税の対象となる米国株式投資からの配当収入と同様の経済効果をエクイティー・スワップという形態で実現させると米国の源泉税の対象とならないという有利な取り扱いに触れた。

今回はIRSが最近公表したRev. Rul. 2008-31(通達)でやはり有利な取り扱いが認められた米国不動産価格の指数に基づくスワップを利用した形での投資に関して触れる。

*外国人の米国投資とキャピタルゲイン

外国人が米国に投資する際に受け取る配当等の運用益は(多くの例外が規定されている利子所得を除き)米国にて源泉税の対象とされるのが通常だ。一方で投資資産を売却して認識されるキャピタルゲインに対して課税されることは少ない。

外国法人が米国投資からキャピタルゲインを認識する際には、基本的に課税されないし、非居住者の個人が認識するキャピタルゲインは「米国源泉」でかつ非居住者が米国に課税年度中に183日以上滞在した場合にのみ課税されると規定されている。不動産以外の資産(すなわち動産、株式、債券等を含む)から発生するゲインの源泉地は、対象資産が米国株式等であっても、納税者の居住地(正確にはTax Homeのある場所)に基づくいて決定されるため(前回のポスティングで触れたエクイティー・スワップの配当額の取り扱いに似ている)、非居住者の認識する動産からのゲインが米国源泉となることは極めて異例だ。

さらに仮に米国源泉のゲインがあったとしても、非居住者でありながら暦年に183日以上滞在するというのは非居住者の定義と矛盾する条件であり、F、J等の特別なビザを持っているケース以外では考え難いシナリオだ。米国不動産から発生するゲインに関しては米国源泉となるが、通常のルールが適用されると仮定すると非居住者が183日米国に滞在していない限り非課税となってしまう。この点に網を掛けたのが後述のFIRPTA規定である。

ただし、外国法人、非居住者個人等の外国人の認識するキャピタルゲインが非課税という基本取り扱いには例外がある。それはゲインが外国人の従事する米国事業活動に係る所得(=ECI)の場合だ。ECIは諸経費をマイナスしたネット金額に累進税率を乗じて課税される。

*米国不動産キャピタルゲイン

上述の通り、外国法人、非居住者個人の認識するキャピタルゲインはECIでない限り滅多に米国で課税対象とはならない。しかし、米国不動産売却に関してはFIRPTAという特別な規定が存在する。

FIRPTAの基本的な規定は、米国不動産から発生するキャピタルゲインは個々の事実関係に係らず、自動的にECIとするというものだ。したがって、外国法人、非居住者個人が米国不動産を売却して認識するキャピタルゲインは、実際に米国で事業に従事しているかどうかに関係なく、常にECIという取り扱いを受け、したがって累進税率で課税対象とされる。また、外国人から税金の徴収漏れがないよう、米国不動産売却時に買い手が譲渡価格の10%を源泉して仮納税するというシステムもFIRPTA規定に後年付け加えられている。

*不動産価格インデックス・スワップとFIRPTA

IRSが今回公表した通達の対象となる取引は次のようなものだ。外国法人は米国ディーラーと米国不動産インデックスを想定元本とするスワップ取引を行う。デリバティブの対象となる米国不動産インデックスとは第三者が公表する一定の米国内都市圏の住宅・商業不動産の値上り・値下りを測定するものである。インデックスは対象となる地域内の多くの不動産取引実績価格、鑑定評価、その他客観的な指標を数学的に加工することにより指標を得ているもので、対象となる不動産を全て所有できるような性格のものではない。

上のようなインデックスを基とするスワップがFIRPTA規定が適用される米国不動産の持分に当たるかどうかというのが通達の検討事項である。IRSはインデックスが広範囲は不動産価格を基に算定されていることから、特定の不動産に対する持分には当たらないとして、FIRPTA規定の対象とならないと結論付けている。

エクイティー・スワップと同様に、このような不動産インデックス・スワップも通常の不動産投資にはない米国税務上の恩典を受けることとなる。