Wednesday, May 14, 2008

米国パートナーシップと外国人パートナー(2)

前回のポスティングで外国人が米国に投資したり、米国で事業を行ったりする際の基本的な税務上の取り扱いに関して触れた。また外国人がパススルーであるパートナーシップを介して米国にて事業を行う(または行っていると取り扱われる)際には、パートナーシップ側に四半期毎に予定納税義務が発生する点にも触れた。今回はその予定納税義務に関してこの程発表された財務省規則の内容を中心にポスティングしてみる。

*外国人によるパートナーシップ投資

外国人パートナーがパートナーシップに投資する場合、そのパートナーシップが米国で事業を行っていると各パートナーが米国にて直接事業を行っているかのように取り扱われる。したがって、外国人が直接米国で事業を行っている際に適用される税務上の規定がそのまま適用される。すなわち、事業所得であるECIに関して確定申告を提出して所得税・法人税を支払う必要がある。

この点、米国の「株式会社(税務上のCorporation)」に投資している外国人株主は、株式会社が米国で事業を行っている場合でも、単に配当という投資所得を受け取ると取り扱われるのと対照的だ。この点をうまく利用しているのがPrivate Equity Fundsのストラクチャーで頻繁に登場するBlocker Corporationであろう。Blocker Corporationに関しては2007 年9月17日の「PE FundsでBlocker Corporationが果たす役割」を参照のこと。また、パートナーシップはパススルーであるため、現金等の分配のあるなしに係らず、パートナーシップの認識するECIの各パートナーへの配賦額が課税対象となる。

*パートナーシップによる予定納税

外国人に対して「米国で確定申告して下さい」と米国が規定しても、その強制力は米国市民、居住者に対する法的なパワーと比べてどうしても弱い。また、外国人側でルールを知らずに申告書を提出していないというようなケースも十分に想定される。

そこで、税金を確実に徴収できるメカニズムとして規定されているのがパートナーシップによる四半期毎の予定納税納付義務だ。このシステムでは、パートナーシップはECIのうち外国人パートナーに配賦される金額に対して累進税率の最高税率にて税金を算定し、IRSに納付する必要がある。現時点では個人所得税も法人税も最高税率は35%となる。例えば、仮に第一四半期にパートナーシップに1,000という課税所得があり、この全額が事業所得すなわちECIだとする。パートナーシップには二人の50・50のパートナーが居たとして、一方が米国居住者、他方が外国人だとする。このシナリオではECIである1,000のうち50%相当の500が外国人パートナーに配賦されるものとなり、その35%である175をパートナーシップがIRSに納付する義務がある。さらにこの175は外国人パートナーに対するみなし現金分配となる。

従来、この予定納税を算定する際、各外国人パートナーの個別状況を取り込むことは認められず、例え外国人パートナー側に他に米国の事業損失があったり、繰越欠損金があったりしても、問答無用にECIに対して最高税率を乗じた金額を予定納税する必要があった。

*外国人パートナー側の個別損失の取り扱い

外国人パートナー側での状況を一切鑑みずに一律に予定納税をパートナーシップ側に強要するというシステムは税金徴収のメカニズムとしては一番硬い方法であるが、最終的に支払う必要のない税金を前納しなくてはいけない局面に陥るパートナー側に取ってみると何とも不都合な規定であった。これは外国人が米国不動産を売却する際に売却代金の10%を予定納税として源泉徴収される規定には納税額の減額手続きが設けられている点と極めて対照的であった。

例えば、上述の例に登場する外国人パートナーに実は過年度からの繰越欠損金4,000があったとする。第一四半期に1,000の所得があるということは年間ベースに置き換えると4,000の所得が予想されるということであるが、もし欠損金の存在を加味すると外国人パートナーの課税所得はゼロとなる。にも係らず従来はパートナーシップは四半期毎に予定納税を行うことが必要とされた。繰越欠損金が同じパートナーシップから発生したものであっても従来はこれを考慮することは認められなかった。もちろん、他にどのようなECIがあるか分からず、4,000の欠損金が未使用が残っているかどうかはパートナーシップ側では知る術もなかった。

そんな不都合な状況を改善したのが2003年のIRS Notice、それに続く2005年の暫定財務省規則、また今回発表された最終財務省規則である。

*最終規則

最終規則では2003年以降の流れを踏襲して一定の条件を満たす外国人パートナーがパートナーシップに対して一定のタイプの損失を報告し、パートナーシップはその損失額を考慮して予定納税額を算定することを認めている。

その具体的な内容はというと、今回の規則も期待を裏切ることなく詳細はかなり複雑である。規則を分かり易く理解するため次回以降のポスティングで、1)どのような外国人パートナーに損失を報告することを認めているか、2)どのようなタイプの損失が考慮されるのか、3)どのような手順で損失の存在を報告し、どのような条件でパートナーシップは報告を加味してもよいとされているか、と3つの内容に大別して解説してみたい。