Monday, March 17, 2008

JP MorganによるBear Steans買収

「エエエエエエ、たったの2ドル!?」。先週金曜日、JP MorganがBear Stearnsに緊急融資を実行した際に「Permenent Finance」を模索しているというようなコメントが発表されていたため、JP MorganによるBear Stearns買収もありかなと思っていた人は多いであろう。しかし、その直後、しかも週末である日曜日に買収が発表されるとは思わなかった。そして一番の驚きは買収価格だろう。ナント一株当たり$2である。スーパーに行っても$2で買えるものは少ない。本気で$2なのか?少なくとも直近の決算書の「Book Value」ベースでも一株当りの資産簿価は$80を超えている。余りにビックリしたので日曜日の夜に緊急に開催された一般投資家・アナリスト向けのカンファレンス・コールを聞いてみた。

*買収形態は?

タックス専門家としてはまず基本的な買収形態が気になるところだが、プレスリリースでは「株式交換」(Stock for Stock Exchange)と表現されている。しかし厳密には株式交換ではなく、あくまでも法的には合併となるであろう。上場企業であるBear Stearnsの株主一人一人と株式交換契約を締結するのは不可能だからだ(この点に関しては過去のポスティング「アメリカで三角合併が多用される訳」を参照)。また、プレスリリースの後半にはSECにMerger Agreementのコピーが今後提出されるであろう記述があることからもこの点は間違いがない。したがって、買収形態はJP Morganの株式を対価とする合併ということになる。

Bear Stearnsの現状を考えると多くの偶発債務、訴訟リスクがあって当然であると思われることから、JP Morgan本体に合併してくるというのも考え難い気がする。となると新設子会社を利用した三角合併だろうか?対価が株式であることからA型非課税再編とされる可能性が高く、その場合にはReverse三角合併でなくても、Forwardでもいい。新設子会社がCorporationであればA型の三角合併となり、通常のA型再編よりも若干条件が厳しい。もし厳しい条件が不都合な場合にはLLCを利用して通常のA型再編とすることもできるだろう。現時点ではこれらの細かい点は明らかではないがMerger Agreementのコピーが公開された時点で具体的な形態が明らかとなる。Merger Agreementの公開が待ち遠しい。

ただ、$2では非課税再編となったところでゲインが発生することはなく、単に損失が繰り延べされるだけの話しとなる。

*日曜夜のカンファレンス・コール

JP Morganによるカンファレンス・コールはCFOであるMike Cavanaghが中心に行われた。最初に今回の取引のメリットが説明され、その後、買収の基本的な内容に関して簡単な説明があった。次のような点が興味深かった。

*MACがない?

まず、今回のMerger Agreementには「MAC」条項がないということだ。MAC条項とは「Material Adverse Change」条項のことで、合併のSigningからClosingの間にターゲット企業に想定外の大惨事があり買い手側が買収に合意した基本的前提が崩れ去った際に買い手が買収をキャンセルできるという買い手のProtectionである。何がMACとなるかはMerger Agreement内容の交渉事であるが、今回のMeger Agreementにはそれがないというのだ。

考えてみれば既に余りに想定外の事態に追い込まれているBear Stearnsを買収するというのだからこれ以上のMACは必要はないかもしれない。したがって、簡単に言えば今後Bear Stearnsに何が起ころうともJP MorganはBear Stearnsを買収しないといけないということになる(もちろん株主総会の承認を得られればだが。この点は後述)。このリスク負担が株式$2という破格のPricingのひとつの理由であることは間違いがない。逆に言えばここまで破格であればMACなど要らないということであろうか。

*取引に対する信用保証は即時有効

更にBear Stearnsの取引に対してJP Morganは保証を提供するとしているが、これは即時有効となる。万一合併が承認されない場合にはその時点から後には保証は効かないがそれまでは保証が有効だということだ。どのようなメカニズムかははっきりしないが、最初の株主総会で株主承認が得られない場合も、12ヵ月以内に承認があればいいというような内容にも取れるコメントがあった。この部分もMerger Agreementのコピーを読めば明確となるだろう。

*Book Value$84と取得価格$2の差異はどこから?

一番興味深い質問はメリルのアナリストからのものだ。「Book Value$84と取得価格$2の差異はどこから?」という、まさに今回の買収の核心に迫る質問である。質問の前のカンファレンス・コールの説明部分で買収コストに加えて、訴訟、De-Leveraging、合理化その他の関連コストが$6 Billion掛かると予想されている、というコメントがあった。したがって、$2の株価にプラスで$6 Billionのコストが掛かる。それでもBook Valueには及ばない。

この点に対する回答はどことなく歯切れが悪かった。短時間のDue Diligence、リスクに対するクッション、JP Morganの株主に対する受託者義務等を考えるとこれが適切な金額であるという回答だ。差額の多くはモーゲージ資産の評価か、という突っ込みもあったがこの点に対する明確な回答はなかったと思う。また、最後の質問はマンハッタンにあるBear Stearnsの豪華な本社ビルはBear Stearns所有か?という質問があり、所有されている点も確認された。あのビルだけでも相当な価値だろう。

*合併には株主の承認が必要

カンファレンス・コールを通じてJP Morganは「今回の合併案が株主総会で否決することは考えられないが・・・」というスタンスであった。本当にそうだろうか?つい最近まで$100を超える金額で取引されていたBear Stearnsの株式である。$2という金額でハッピーな株主がいるとは思えない。問題は他に代替案があるかどうかである。代替案としては、更正法適用、清算というオプションがある。また、他の買い手が現れて高い金額を提示してくれるという代替案も考えられる。

Merger AgreementにはおそらくBear Stearnsの経営陣が他の買い手を探してはいけない「No Shop」条項が盛り込まれているはずだが、デラウェアの会社法、判例に基づき「Fiduciary Out」条項も盛り込まれているはずだ。すなわちより価値の高い提案(Superior Proposal)が舞い込んできた場合には、それを検討しなくてはいけない。目的はあくまでもBear Stearnsの株主価値の最大限化にある。その場合にはJP MorganにいくらのBreak-upコストを支払うことになるのか等も全てMerger Agreementが公開されれば明らかになるはずだ。

予断となるが、カンファレンス・コールには、明らかに怒っていると見られるBear Stearnsの株主から「$2という価格はBear Stearnsの株主にとって正当なものか?」という質問があった。回答は「それはBear Steansに聞いてくれ」という素っ気無いが正しいものであった。質問した株主は一瞬シーンとなったが「僕は合併は承認しない」と発言していた。JP Morganサイドは「OK. 次の質問・・・」という対応であった。

全体を通して、JP Morgan側がBear Stearns株主のよる合併承認にかなり強気であったのが印象的だった。大口の株主と既に「Shareholder Agreement」か何か締結しているのだろうか?またまた今後の展開に目が離せない案件が増えた。