Sunday, June 24, 2007

「Carried Interest」とパートナーシップ「プロフィット」持分

*「Carried Interest」に対する課税強化法案

Private Equity Fundsの税務上の恩典に関しては6月6日のポスティング以来、何回か触れてきた。中でも「Carried Interest」をキャピタルゲイン扱いではなく通常所得扱いしようという法案が提出されている点に関しては前回のポスティングでも触れた通りである。

新聞の報道を読むと「Carried Interest」を受け取ると、パートナーシップそのものが課税されるかのような誤解を受けるかもしれないが、法案原文を読むとそうではなく、PTPではないパートナーシップ、LLCのパススルー扱いはそのままとし、パートナーに配賦される「Carried Interest」がパートナーにとってキャピタルゲインではなく通常所得となるというのが法案の骨子である。具体的にはSec.702の取り扱いの一部を否定する形でSec.710という条項が新設される。

*「Carried Interest」とは

Private Equity Fundsの基本的な手法は、自己の元手は最小限とし、金融機関、保険会社等からの借り入れ、ペンションファンドを代表とする投資家からの出資、そして場合によってはジャンクボンドその他社債の発行により資金を集めてターゲット企業を買収するいうものだ。買収した企業のオペレーションは徹底的にコストカット、効率化を進め、借金返済を進めると同時に企業価値を高め、最終的には第三者に企業を売却して巨額の利益を得るというものである。

この過程を管理するPrivate Equity Fundsの典型的な報酬形態は次のようなものだ。まず、ペンションファンド等の投資家から集めた資金を投資管理する「年間マネージメントフィー」として投資残高の1%強を受け取る。これは企業買収したかどうかに係らず発生するものだ。次にターゲット企業を買収した際には投資銀行業務フィーとして買収価格の1%が転がり込む。更に買収企業の価値を高めるための監視料として年間一定の固定フィーを受け取る。

上の3つの収入源に加え、さらに大きな「儲け」の源泉となっているのが「Carried Interest」だ。これは買収したターゲット企業を最終的に売却、IPO等「Exit Strategy」に基づき現金化した際のゲインの20%をPrivate Equity Fundsが受け取るというものだ。Carried Interestというコンセプトはベンチャーファンド、不動産投資で以前から見られる報酬体系であるが、Private Equity Fundsの取り扱い案件は金額が比較にならない程大きいため、Carried Interestからの儲けも極めて大きいのが特徴である。

*「Carried Interest」の税法上の取り扱い

これらのPrivate Equity Fundsが受け取る報酬のうち、年間マネージメントフィー、投資銀行業務フィー、買収企業監視のための固定フィーは現金決済であり受け取り時点でサービス提供に対する報酬として課税される。Private Equity Fundsがパススルーであるため、これらのフィーはGPまたはメンバー等に配賦され、各々が累進税率(連邦は最高税率の35%となっているであろう)に基づき税金を支払う。

一方「Carried Interest」に対する取り扱いはかなり異なる。「Carried Interest」は元々Private Equity Fundsの資産マネージメントを担当するパートナーまたはメンバーが「役務提供の対価」として受け取る「パートナーシップの持分」(=現物支給)である。分かり難いかもしれないが、株式会社の経営者が給料を現金の代わりに自社株式で受け取ることがあるが、それのパートナーシップ版と思えばいい。給料を現金の代わりに株式で受け取れば、「現物支給」として株式の時価が給与扱いとなる。もし受け取った株式の価値がその後上がれば売却時点では上場分がキャピタルゲインとなる。

*「キャピタル」と「プロフィット」持分

パートナーシップに関してもこの考え方は同じなのだが、パートナーシップの持分には株式にはない一つの必殺技がある。パートナーシップに対する持分は株式と異なり「キャピタル」に対するものと「プロフィット」に対するものに大別することができるという考え方である。キャピタルに対する持分を受け取ると、その時点でパートナーシップが清算されたとしてもパートナーシップの資産に対する権利を持つこととなる。一方で「プロフィット」に対する持分を受け取る場合には、あくまでも将来的にパートナーシップが認識する所得に対する受給参加権があるということであり、その時点でパートナーシップが清算されてしまったら受け取るものはない。

一般的に、ある程度洗練されたプラニングに基づいてアレンジされるパートナーシップ(LLCを含む)においては、「キャピタル」持分と「プロフィット」持分が異なる比率でパートナーに付与されるのは珍しいことではない。

上の例にあるように、役務提供に対して現物支給を受ければその時価が報酬として課税されるはずだ。しかし、将来の「プロフィット」は未だ実現していない訳だから、例え役務提供の対価としてそれを受け取ったとしても、受け取った時点では課税対象となるような価値はない(または価値は分からない)というのがプロフィット持分に対する課税の考え方である(IRSのRevenue Procedure上一定の形式を満たす必要があるが)。

このパートナーシップの持分をキャピタルとプロフィットに分けて考えるということはPrivate Equity Fundsに特別なことではなくパートナーシップ、LLCが新規のパートナーを迎えいれる際に普通に利用されている。すわなち、新規パートナーを迎え入れはするが、それまでに蓄積したパートナーシップの資産に関しては既存のパートナー達のみが受給権を持ち、新規パートナーはその後のパートナーシップの収益に対する持分を受け取るということだ。これは極めて自然な考え方であろう。

上述の通り、役務提供対価としてパートナーシップのプロフィット持分を受け取る段階では基本的に課税はない。例えば、法律事務所や会計事務所でパートナーとなる者が、その時点でパートナーシップの価値に対して課税されないのはこのためである。その後、実際にパートナーシップが所得を得て、それがパートナーに配賦される段階で初めてパートナーは課税されることになる。通常はパートナーシップはサービスフィー等を受け取りそれがパートナーに配賦されてくるので、各パートナーは各々に適用される通常の税率にてタックスを支払うこととなり、特に議論を引き起こす余地はない。

*「キャピタルゲイン」に対する「プロフィット」持分

ところが、もしパートナーに将来配賦される所得がキャピタルゲイン項目だと大分見え方が異なる。今までの例同様にパートナーは役務提供の対価として「プロフィット」持分を受け取る。しかし、将来配賦されてくる所得はパートナーが投資マネージメントを担当する買収企業の売却益の一部だとすると、配賦されてくる所得はキャピタルゲインである。これが「Carried Interest」だ。

なぜキャピタルゲインかと言うと「パートナーが受け取る所得の性格はパートナーシップでの所得の性格をそのまま引き継ぐ」というパートナーシップ税制の基本的な考え方・規定があるからだ。パートナーはパートナーシップ合意書(LLCの場合にはOperating Agreement)に基づき、基本的に所得、費用は好きなように配賦してよい。例えば、資産の売却益はA氏に、減価償却費用はB氏に、サービス収入はC氏に、といった配賦が可能である。配賦は次の要件のいずれかひとつを満たせば税務上もその効果を認められる。


  • 税法のSec.704(b)に規定される「Substantial Economic Effect」を持つ
  • パートナーシップに対する持分と整合性がある
  • 施行規則に規定される特殊要件を満たす(例、Sec.704(c)、税額控除とかNonrecourse Allocationに係る配賦)
各パートナーのキャピタル勘定が適切に維持管理されている限り、「Carried Interest」の配賦はまず「Substantial Economic Effect」を持つとされるであろう。すなわち税務上も配賦が問題とされることはない。

結果として役務提供に対する報酬であるにも係らずキャピタルゲインとしての所得を認識することになる。パススルーなので個人パートナーはキャピタルゲインに対する優遇税率(15%)の恩典を享受できるという訳だ(キャピタルゲインに対する一般的な取り扱いに関しては5月25日のポスティングを参照)。

*課税繰り述べ

「Carried Interest」がもたらす税効果はそれだけではない。通常のサービスフィーが配賦されてくるケースと比較すると、所得認識のタイミングが遅い。すなわち、ターゲット企業が最終的に売却されるまでキャピタルゲインは発生しないので、その時点まで課税関係が発生しない。この「繰り延べ」も「Carried Interest」に対する税務上の恩典のひとつとして指摘されることもある。

実は「Carried Interest」その他のプロフィット持分に対する課税問題点としては、過去においてはキャピタルゲインとなることよりも、むしろ持分が付与される時点で課税をしなくてはいいのかという繰り述べに係る検討が多くされてきた。この点に関してはIRSの暫定規定等があり、一定の要件(Safe-Harbor)を満たしていれば付与時点では課税がない。Safe-Harborを満たさない場合にはSec.83に基づき時価評価をして課税額を決定する(時価評価は極めて難しく、ゼロとなる場合もあるだろう)。

*「Carried Interest」の取り扱いは税法の濫用か?

上述の「Carried Interest」に対する税務上の取り扱いは現時点での税法に準拠するものである。「プロフィット」持分と「キャピタルゲイン」の取り扱いをうまくマッチさせてところが鍵となるが、それだけで「Carried Interest」がこれだけ問題視されるとは思えない。例えば、個人商店を持つ老経営者が息子に事業を継がせたいと願う。息子には出資する現金がないため、家業を継がせるためのインセンティブとして「プロフィット」持分を与えたとしよう。事業を将来売却するようなことがあればそのキャピタルゲインを息子に配賦するとする。何年も経ち事業は息子のハードワークで大きな価値を持つこととなる。事業を売却して息子に配賦される所得がキャピタルゲインとして課税されることにそれ程違和感はないのではないだろうか。

となると本当の問題はPrivate Equity Fundsのマネージャー達が手にする「Carried Interest」の金額が大き過ぎるというところにあるのだろうか。キャピタルゲインの取り扱いを批判する側の言い分は、「Carried Interest」の源泉となるゲインは所詮他人のリスクマネーを基に実現されたものであり、単に買収企業に対する投資のマネージメントを担当したPrivate Equity Fundsのパートナーがキャピタルゲインとしてこれを認識するのはおかしいというものだ。しかし、実際には買収企業の価値が上がらなければ「Carried Interest」としての報酬もないのも事実であることから、キャピタルゲイン擁護派はこれは他の投資所得と何ら変わりはないと言う。この辺りの話しとなると後は政策的な判断とならざるを得ないだろう。今後の展開から目が離せない。